「1レップを大切にする」とはどういう意味か?——内的集中・意図的制御・意図的スピードの3軸で整理する

04. 筋肥大の考え方

「1レップを大切にする」とはどういう意味か?——3つの正解がある話

「1レップ1レップを丁寧に」。ジムで一度は聞いたことがあると思います。私も言います。

ただ、この言葉、中身を聞いてみると人によって全然違うことを指しています。効かせることだと言う人、ゆっくり降ろすことだと言う人、全力で挙げることだと言う人。全員「丁寧に」と言っているのに、やっていることは別物です。

実はこれ、少なくとも3つの違う話が1つの言葉に混ざっています。そして先に結論を言うと、3つとも正解です。ただし「いつでも」ではありません。

先に前提を置いておきます。この3つ、研究の裏付けの厚さは同じではありません。「速く挙げる意図」は裏付けが厚く、「効かせる感覚」が筋肥大で実際に差をつけたことを直接示した研究は、今のところ実質1本です。この記事は「どれが正しいか」を決める話ではなく、目的でどう使い分けるかの整理です。

軸1:効かせたい筋肉を感じながら挙げる

1つ目は、狙った筋肉が働いている感覚に意識を向けながら動く、いわゆるマインドマッスルコネクションです。

正直に書きます。狙った筋肉の活動——筋電図で測る電気的な働き——が高まることは、繰り返し確認されています。ただ、その先です。筋肉がよく「働いた」ことと、実際に「育った」ことは別の話で、肥大で差がついたことを直接示した研究は実質1本しかありません。裏付けが厚い話ではない、というのが現在地です。

そのうえで但し書きです。重量が上がるほど、この意識は効きにくくなります。高重量では「筋肉を感じる」余裕自体がなくなり、無理に感じようとすると出力が落ちる報告もあります。使うなら中重量・高回数で筋肉を育てたい日のツールです。MAX挑戦の日に持ち込むものではありません。「効かせる」意識の効果と限界はTUT・MMCは重要か?で詳しく整理しています。

軸2:降ろす局面をコントロールする

2つ目は、重さに任せてストンと落とさず、降ろしを制御することです。

これも大事です。ただ、ここでよくある勘違いを1つ潰させてください。「ゆっくり降ろす=丁寧=安全」ではありません

現場で実際にあった例です【現場知】。デッドリフトで「丁寧に降ろそう」と意識しすぎた結果、降ろしがどんどんスローになり、気づけば膝が伸びたまま腰から折りたたむ動き——お尻を後ろに引くヒンジ動作、ルーマニアンデッドリフトのような形——に変わっていた。本人は丁寧にやっているつもりで、腰への負担はむしろ増えていました。

制御とは速度を落とすことではなく、バーの軌道と体の形を保ったまま降ろすことです。結果的にゆっくりになることはあっても、ゆっくりが目的になった瞬間に別の種目に化けることがある。ここは切り分けが必要です。デッドリフトと腰の話はデッドリフトで腰を守りたいなら、いきなり引くなでも書いています。

軸3:重くても「速く挙げるつもり」で押す

3つ目は、実際のバーの速度は遅くても、意図として全力で速く挙げようとすることです。

筋力・パワーが目的なら、これは定番中の定番です【定説に近い有望】。重い物を挙げようとする意図の強さが、動員される筋力の大きさに直結します。バーが実際にゆっくりしか動かなくても、「速く」のつもりで押す。パワーリフティングの世界では昔から当たり前にやられてきたことで、研究もそれを追認しつつあります。

※但し。これはフォームが固まっている人の話です。動作がまだ安定していない段階で「全力で速く」をやると、崩れたフォームを全力で反復することになります。初心者のうちは軸2が先、軸3は土台ができてから。順番があります。

で、どれが正解なのか

3つ並べると分かると思いますが、これはそのセットの目的で決まります

  • 筋肉を育てたい日→軸1
  • フォームを固めたい時期→軸2
  • 筋力を伸ばしたい日→軸3

「常にこれをやれ」という答えは、この話には存在しません。逆に言えば、今日のセットの目的が決まっていれば、「丁寧に」の中身は自動的に決まります。

ちなみに、”質の高い1レップ”というと、ゆっくり丁寧に・効かせて、を思い浮かべる人が多いと思う。筋肥大の理屈だけ見ればMMCやTUTの話になる。ただ、私の順番の提案は逆で、フォームが固まった初心者なら、まず速く挙げる意図で重量を追う。ベンチなら100kgを目安に。そこまでの過程で筋肉は普通につく【定説】(筋力と筋サイズの関係は筋力と筋サイズはどこまで比例するのかで整理しています)。実際、現場でベンチ100kg未満でMMCを意識している人が、MMCなど気にせずトータル500kgを挙げる人より大きい例を、私は見たことがない【現場知】。100kgを超えてから、もっと筋力寄りに速度を突き詰めるか、好きなYouTuberのようにMMC・TUTを取り入れるか、そこで分岐すればいい。

だから質問を1つ置いて終わります。あなたの今日のセット、目的はどれですか? それが決まれば、1レップの大切にし方も決まります。

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